The お調子者
インターネットの電波もか細い田舎につき、耳を済ませども隣近所の話し声はおろか、車や工事現場の音もない。聞こえてくるは鳥の声と練習中のオーケストラ曲だけである。
宿泊先のご近所さんからの差し入れということで、昼間からロゼワインをご馳走になり、いい気持ちになったので、皆が午後の練習へと向かうと同時に一人暖炉のある応接室へ枕と毛布を持ち込んで、腰痛を労るという名目を掲げソファーでごろごろ寛いだ。
こんなに静かで穏やかな場所で、一度も台所に立つことなく食事ができた上、眠気にまかせて寝てしまえるなんて、今日という一日はなんて素晴らしい日なんだろうとそんなことを思いながら、そのまま気持ちよく眠ってしまった。
小一時間ほどうとうととしていると、バタバタと慌ただしく軽い足音が近づいてきた。辺りがあまりに静かなため、よく足音が響いて聞こえた。誰か来たかと仕方なくソファから起き上がると、ガチャンと勢いよくドアが開いて息子が現れた。
息子は女の子を一人連れていた。他の子供達も大人もいなく、聞けば二人は今皆が練習している曲には参加しないから二人だけで少し休憩しに来たとのこと。なんだ全員休憩というわけでもないのかと、私は再びソファにごろんとなり、またも昼寝を再開しようとした。
息子は一緒に来た花子(仮)ちゃんという名前の2つ歳下の女の子と二人で私の昼寝のすぐ横で仲良さそうに話をしだした。小さな子供がする仲の良さそうな話し声はうとうととしている私にはなんとも聞き心地がよく、黙って二人の話し声を聞き続けた。
息子『8歳やんな?誕生日いつ!?』
花子『1月13日。早生まれ。』
息『そうなんや。もうじゃあ終わっちゃったんや。』
花『うん。お正月になったらすぐに誕生日になるの。』
息『ふーん。僕のパパも1月生まれやで!
僕は11月の22!二人とも1が多いな!』
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息『13やとうちのパパより先に誕生日やな!僕は22やからもっと後やけどな!』
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花『そうなんだ。11月だとまだまだだね。』
息『うん。でも11月になったら22日はすぐやで。』
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ママ(私)『ちょっと!』
花『?』息『?どうしたん?』
マ『あのさ、いつから22日生まれになったん?あんた24やろ、誕生日。』
息『あー。ほんまや、間違えてたわ!笑!』
眠気もあるし気のせいかと、つっこむことなくほっておこうかと思ったが、デレデレしながら三回も違う誕生日を連呼されるとさすがにつっこまずにはいられなかった。
花『えー。誕生日忘れてたん?笑』
息『ははは、間違えただけやん。24やわ。笑』
このデレデレ男がぁ!っと心の中で息子につっこみ、すっかり目が覚めてしまった私。そんな私に気を使ったのか二人は
『かくれんぼしてくる!』
といって応接室を飛び出していった。
再びうとうとしようかと一人ソファで静けさを楽しむことにした。鳥の声と音楽が微かに聞こえる中、気持ちよくうつらうつらとしだしたところで、再びバタバタ…バタバタ…と足音が響いてきた。かくれんぼで相手を探し回ってるのかとボンヤリする頭で考えた。
息子『はるかちゃーん!あれー?』
『はーるーかーちゃーん!!』
………。
『はるかちゃーん!どこー!?』
ガチャン!
『ママー!はるかちゃん見んかったあ?』
ママ『あの子の名前は花子ちゃん!!!!一文字しかあってないわぁっ!!!』
息子『!!?』
静けさあれども息子のボケにより日常へとカムバック。
合宿期間、息子のハイテンションメーターが振り切れ中。
何故に彼はああなのだろうか…