冷蔵庫のお宝
アルコールの話をする時、数年間熟成させたものをよく『○年物』という言い方をする。ワインだと西暦で何年にできたものだという言い方のほうが多いかもしれないが、今から20年前に作られていたら20年物といったりもするし、泡盛だと150年物なんていう古酒といった希少なお酒が存在するとか。
元々、アルコールの発端は諸説あるが世界各地で猿酒説が有効とされているらしい。猿酒とは、猿が果物や木の実を集めて隠していたものが自然にアルコール発酵してしまい酒となったものだ。もちろん、自然界で偶然的にできた猿酒では供給も安定しない、品質も不安定なので、そこから長い年月をかけて人間が安定安心の素晴らしい飲み物へと改良していったのだが、その説を知った当時の私(お酒好き)は猿に敬意を表さずにはいられなかった。
数日前、地下鉄の電車のなかで娘が私に尋ねてきた。
娘『なあ、お茶って腐るん?』
母『へ?お茶?お茶は…腐らない気がするよ。…でも賞味期限はあるし、買ってきて直ぐのと、開けっ放しにしてほったらかしてるのじゃ味も香りも違うしな、美味しくはなくなっていくよ。』
娘『でも、飲めるんやんな?』
私『???飲める。と思う。たぶん。ママは腐ったお茶の葉はみたことない。』
娘『…ふーん』
一体何の話だかと思っていたのだが、昨夜、子供達とバレンタインの話になり合点がいった。娘は私へのバレンタインデーのプレゼントを考えていたのだと。
去年のバレンタインデーをたしかうっかり忘れていた私は、その辺のスーパーで美味しそうなチョコを買ってかえったのだが、そんな適当な母に、なんと娘がチョコレートをプレゼントしてくれたのだ。スーパーではなく、近所の小さなショコラティエへこっそり一人で買いに行ってくれていたのだ。初めての娘からのバレンタインのプレゼントにとても嬉しくて感動した私は、もらってすぐに一つを食べ、記念に写真を撮った。それから、冷蔵庫に大事に入れておいた。極たまーーーーに、一つのチョコを箱からとりだし食べていたのだが、次第にもったいなくて徐々に手が出せなくなっていったのだ。時折、娘に
『まだ食べてないん!??』
『いいかげん食べや!!』
と、この一年言われ続けてきた。
そう、もったいなくてある時から手が出せなくなった娘からのチョコレートは一年たった今でも我が家の冷蔵庫の中で奉られているのだ。その結果、呆れはてた娘が【何年たっても食べれるもの】といったカテゴリーで母へのプレゼントを探しだしているのだ。
さらに言及すると、息子も11月にあった誕生日に姉である娘から同じようにショコラティエのチョコレートをもらい、チョコ好きのくせに今なお冷蔵庫に奉っている。
我々の冷蔵庫のお宝チョコは賞味期限を過ぎていようと捨てるなんてもっての他。だからと言ってアルコール発酵するわけでもなく、年代物にするわけにもいかないのだが、どうしていいやらわからずに一年も経ってしまった。できることならいっそ古酒のように年代物にしてしまいたいくらいである。
しかし、どうやら明日のバレンタインには、美味しそうなお茶をいただけるような気がするので、チョコの熟成は一年だけにして明日のおやつに美味しいお茶と一緒に頂こうかと思う。
ここまで書いてて
『これで明日、何ももらえなかったらどうしよう。』
と、ふと考えた私は小心者だろうか。 バレンタインデーの男性の気持ちが少しわかった気がした。
バレンタインデー
世の男性陣と女性陣に祝福あれ
左 : 息子所有 3ヶ月物
右 : 母所有 明日で一年物