『助けてドラ◯も~ん!』
『ママァ。ドラえもんの道具にさ、人生やり直し機ってあるんやけどさ、もしそれで昔の自分に戻れたら、ママやったらいつの頃に戻りたい?』
台所で夕食のパスタを湯がきながら、野菜を切っていると食卓のほうから娘が尋ねてきた。
『えー。わからん。いつに戻りたいっていわれてもなあ、いつでも面白いっちゃ面白かったけどなあ。それさあ、昔に戻ったら今も変わってしまうんやろ?』
『そりゃそうやん。』
『じゃあ、いいわ。別に戻らんでいい。むしろお化けみたいに昔の自分とこに行って『もっと勉強しろよ』とか『資格とれ』とか『お金貯めとき』とかをちょこちょこ耳打ちするくらいならしたいかなー。』
『えー。そんなもんなん?』
『そんなもんでしょ。今べつに死にそうなほど困ってるんでもないし、今がなかったことになる方がいやじゃない?』
『んん。まあ、たしかにそうかなー。』
『今ママ、結構いいこと言ってる気がするー。思わん?』
『ふーん……』
パスタを一本お箸で掬い上げてかじると、丁度ゆいい具合にゆで上がっていたので、流しの上で左手でザルを持ち、パスタをザルに開けようとした。少し手元がくるい、ゆで上がったパスタが勢いよくザルに流れ込んできたと同時にパスタのゆで汁がザルを持っていた左手にぱしゃっとかかった。
『あっつーー!!!!今!今っ!!今すぐっ!!ママ今すぐその機械ほしい!!2分前!戻りたいっ!!』
『え?何してるん?』
『パスタのお湯かかったーー!!!』
食卓から「またやらかしたか…」という空気を放つ娘を感じながら、ゆで上がったパスタを放置し、水道水で左手を冷やした。
勉強、資格、貯金より、そそっかしさをどうにかしろと、過去の自分に言いに行きたくなった。