息子後援会…
先月、息子の小学校から、ご丁寧にもパリ市役所の印がついた召集令状が送られてき、昨日それに従い息子の通う小学校へ行ってきた。
実は、うちの息子は問題児で、公立だろうと義務教育のうちから落第飛び級制度を取り入れているフランスにおいて見事にその制度の対象となりえるのだ。まあ、一言でゆうと、『留年間際』である。さらに、それはこの一年の学力云々だけが原因ではない。幼い頃から極端にマイペースな息子。大好きなチェロ以外微塵の興味もなく、絵本もきらい。幼稚園でも工作やお絵描きもろくにしなかった。おそらく2年生くらいまで学校は勉強するところとさえ分かっていなかっただろう。おかげで、幼稚園から毎年進級をあやぶまれ、そして、小学校に入ってからは年に数回、彼の学校生活の様子や成績、進級に対して息子に職員会議が開かれるようになった。そう、昨日の召集もまさにその会議だった。
会議には校長先生、担任の先生、息子専属補佐の先生、学校の精神科医、息子が幼稚園からお世話になっている小児専門の機関の精神科医とフランス語の先生、さらには教育委員会の人間、そして私と主人が出席する。そして、息子に携わるすべての人間が前回の会議から今日までの彼のことを、それぞれ発表しあうのだ。
今回も、またこの会議か…と手紙をもらい緊張した。来年、フランスにおいて彼は中学生になるので進学できるのだろうかと少しの不安を抱きつつ、いざ学校へと向かった。
会議室に通されると、見慣れた面子が次々とあつまり、順番に挨拶をした。今回は教育委員会の人間はこないようで、それを除く全員が着席をし出席者名簿にサインをし会議スタート。校長先生から今回の会議の趣旨は、『進学できるかどうか教育委員会が判断を下す日までに息子のできることを話し合う』と説明された。なるほど、今日は進学ジャッジの日ではなく、対策をねる日かと納得した。
まずは、フランスの新学期である9月からお世話になっている担任の先生が話し出した。その担任の先生は娘も二年間お世話になったベテラン先生で、がっしりとした体格ではっきり大きな声で話し、よく笑う、パワフルという言葉がぴったりなマダムだ。彼女は先月行った10日間の修学旅行での息子の話を主にしてくれ、旅行中とても利口だった言ってくれた。
『本当によく話を聞いていたし、手もかからなかった。一緒にハイキングをしたり洞窟見学をしたり、フランス人じゃないとは思えないぐらい我々フランス人との生活に馴染んでて、とても楽しそうだった。その旅行を経て彼はとても成長した!ものすごくしっかりして帰って来たのが今の彼だ!』
と、とても得意気に嬉しそうに話してくれた。母としても、ここまで息子を誉められ一安心どころか、とても嬉しかった。さらに周りを見渡すと他の人間も、『そうか、そうか』と祖父母が孫の成長を聞いてるかのように頷いている。
そう、その会議にきている人間は、まともに勉強もしない自分の世界まっしぐらな我が息子がなぜだかみんな大好きなのだ。担任の先生の発表を境にして、みんなが口々に息子について語りだした。『ここ最近の彼の質問の多さと来たら!あれは、すごい成長よ!』『算数だって、こんなにできてる!』『私にだって、こんな風に話してくれる!』などなど、もちろん出来てない部分も語られるのだが、出来てる部分を得意気にやたらと強くほめてくれた。しかし、大変に失礼なのだが、その語りに同じく入っていけるほどの語学力を有さない私は、彼らのやりとりをひたすら聞いていると、ひそかに
『息子とゆかいな仲間たち』
とタイトルをつけたり、
『息子ファンクラブ』
『息子を称える会』
とかの名前をつけてしまいたくなるのだ。
本当に皆から息子は大事にされているようで、昨日も
『昔の彼は、一切の事象に興味がなくて、、、』と言い出した精神科医に
『は?それは誰のこと?彼なはずがないわ!』とマダム パワフルがくってかかり、
『でも、わたしはもう五年以上も彼をみている!』と精神科医が応戦
『そんな、バカな!』とマダム パワフル。
拉致が空かないと思い間に入り、『彼女のゆう通り、息子はチェロ以外の万物に興味がない、幼稚園でもお絵描きひとつしない子だった。』と息子の数年前をマダムパワフルに伝え、驚いた表情で納得する。といったことがあった。
ちなみに去年は教育委員会の一人が、学力が上がりだした息子に対して『ようやく彼も本当のここの生徒になれたね』と言い、『今も、昔も彼はうちの生徒だ!!』と、校長先生がキレたのだ。
そんな校長先生は、一人この会議の内容を聞きながらパソコンに記述していっていた。手元を動かしながら、皆のやりとりを生暖かい眼差しで見ていた。ひとしきり発言があったと判断し頃合いを見はかり、『さて…』と校長先生が机に置かれていた一枚のプリントを手にした。
『ここに、彼の書いた作文がある。一切、誰からも手伝ってもらわずに彼が書いた作文をよみます。』と言い出し、息子が書いた修学旅行での作文を読み出した。たまに書き間違いのある少し読みにくい文を彼は丁寧に一言一句、書かれたまま読んでくれた。聞いている周りの人間が、またにある間違いを訂正しようとしても、『これが彼の文だ』と貫く校長先生。
校長『しゅうがくりょこう へ きた。
あさから、おきてから、~へいって、それからみんなであそんだ。べんきょうもがんばったし、ハイキングもしたし、どうぶつ もみた。とてもたのしかった。ごはんにステーキとポテトをたべた。さいこうだった。
ママへ てがみ を かくのをわすれた…』
見渡すと、全員が笑ってる。
『ステーキ&ポテトが好きとは本物のフランス人だ!』と喜ぶ校長。他のひとは『動物嫌いだったのに~!』とか、『勉強をがんばったか!』『ママに手紙出すのわすれるってありえない(笑)』とかなんとか、なんてゆうか、とりあえず息子の作文をネタにひたすらツッコミあっていた。見ていると一体全体なんの会議かわからない。進学がかかった対策会議とは思えない笑い声。さらには、精神科医が『私はこの間、彼がチェロを弾く姿を携帯の動画で少しみせてもらった。びっくりするぐらい上手かった!』と言ったおかげで、他の方々が『え!いいな!』とか『みたい!』といいだした。収まりがつかないと思い、
『じゃあ、校長先生のメールに動画をおくりますね』と提案してみた
が、
喜ぶ校長とは相対し、
『えー。』『ずるい。』『なんで彼だけ!』と言われる始末。
『…なので、皆さんで見てください。』
とつけたした。
おかしい。進学対策をするコーナーではなかったのか?なにコーナー?なに会?いや、そうか、これは後援会か!とひそかにつっこんでいた。
そこからは、さらに去年まで在籍していた娘話にまで発展し、こんなやり取りを45分ほどくりひろげ、ようやく今後、彼がどうしていくのがいいかと話合った。皆が語りあったように、ありがたいことに急速に成長している息子のこれからやるべきことは、
①フランス語のDVDをたくさん見る。(フランス語のボキャブラリーを増やすために)
②本を読む(フランス語文書の理解力をあげるために)
③自転車、キックボードであそぶ(体力向上のため)
という、きわめてシンプルなものになった。
会議が終わり、それぞれの方に今日の会議への出席に対して感謝を伝えた。会議室をでて、時計を見ると一時間以上経っていた。
内心おかしなネーミングを付けたくなる集まりなのだが、息子一人に年に数回もこんな時間を設けてくれる彼らとのこの出会いに、息子は本当に幸運だと実感しつつ、心の底から感謝を伝えたいと思う。
なので、息子よ。大きくなったら今日の日記をフランス語にして彼らに伝えてほしい。もちろん、母の脳内ネーミングコーナーは書かないように。お願いしマウス。