サンタクロースの苦悩
街中がキラキラとクリスマスイルミネーションで輝いている12月のパリ。
あちこちのショーウィンドウやアパートのベランダにサンタがいたり、スーパーの店員さんもサンタ帽やトナカイのカチューシャを着用したり、花屋さんの店先では歩道にまで売り物のクリスマスツリーのもみの木が溢れんばかりに並べられている。
どこもかしこも、見渡せばクリスマス一色になっている。
そんなクリスマスの雰囲気を世間の方々と同じく私も楽しんでいたつもりが、どうやら、まんまと文字通り『師走』マジックにはまっていたようだ。あっちへこっちへと動き回っていて私は大切なことを忘れていた。
昨日の朝、主人が出勤準備をしながら、今年のクリスマスは連休がとれそうだという話をしてくれた。仕事の都合で普段めったに連休などとれない主人なので、それはよかったと喜び、クリスマスはどう過ごそうかと話し合った。そして気づいたのだ。私たちは子供たちへのプレゼントを買っていないということを。
あと数日でクリスマスだというこんな直前に、そんな大事なことに気付いた二人は出勤10分前の玄関にて『何を買う?』『いつ買いにいく!?』という緊急会議を急遽行った。今週末から冬のバカンスが始まるので、子供たちも朝から夜まで家にいることになるのだ。そんな中、こそこそとばれないようにプレゼントを探しにいくなんて不可能もいいところであった。主人が仕事の隙をみて、休憩時間中に買いに行こうかとも提案してくれたのだが、そんな短時間で買い物ができるほど、クリスマス直前のパリは甘くない。
フランス人にとってクリスマスは日本人のお正月レベルに大切な日で、皆、実家へ帰り家族とともに年に一度のご馳走を食べ、プレゼントを渡し合ったりしながら楽しく過ごす日なのだ。そんな大切な日のために、ご馳走の材料を探し歩く人もいれば、実家へのお土産や家族へのプレゼントを探す人もいる。この時期は街中にクリスマスのための買い物に出かけている人で溢れかえっているのだ。そんな中で、何にするかも決まっていないプレゼントを買いに行くなんて休憩時間が何時間あっても足りないだろうと思い、
『じゃあ、私が今日探して買っとくよ。』
と、主人に宣言すると、
『じゃあ、お願い。』
と返事をし、彼は仕事へと向かっていった。
ここ最近、週末問わず連日予定がつまっていた私にとって、実は昨日はようやくゆっくりできる貴重な一日だったのだ。午前中に荒れ果てた部屋を片付けた後はクリスマスツリーを出してから、マルシェへ行き大好物の生牡蠣を買い、一人で昼御飯にそれらを白ワインと共に食べながら、連日の疲労回復と翌日から始まる冬のバカンスに備え英気を養おうと企てていたのだが、すっかり忘れていたサンタ業務のおかげで予定が大幅に狂うこととなった。しかし、大人げない上にあきらめの悪い私は、どうしてもお昼の癒しのご馳走を諦めきれず、なんとかマッハで動いてマルシェの閉まる午後1時までにプレゼントを二つゲットして、それから生牡蠣を買いに行けるんじゃないかと、高速で昼までの行動を考えた。
まず主人が出勤後、世間の店舗が開き出す10時までは部屋の片付けをしたり洗い物をしたりしながら何を買いに行くかを考えようと決めた。しかし、考えても考えてもプレゼントの内容が思い浮かばなかった。なぜなら、娘&息子(&主人)が最近一番欲しがっているスマッシュブラザーズなるニンテンドースイッチのソフトは、姉夫婦がクリスマスプレゼントとして、既にこちらへ郵送してくれていたからだ。おそらく子供たちは自分達が欲しがっているソフトをサンタさんが届けてくれるであろうと期待していたので、それ以外にあれが欲しいこれが欲しいとは言ってなかったのだ。まして、日頃から外出が多い娘&息子はさほどの物欲もなく、数年前の息子のクリスマスプレゼントのリクエストなんて『タクシー』だったくらいだ。まさかのリアルタクシー。息子曰く『あんな便利なもん他にない。』とのことだった。そんな猛者相手に簡単に名案が浮かぶはずもなく、あれこれと携帯を見ても何がいいかわからず、どうしようもなくなった私は実家へSOSの電話を掛けた。
両親はかつて小学校の教諭をしていたので、既に退職したとはいえ長年子供たちとは接してきていたはず、まして父に関しては未だに近所の小学生たちに勉強を教えに行っているので、最近の子供たちの喜びそうな物を知っているはずだと思ったのだ。電話で用件を伝えると、母は
『自分の子供なんやし、見てたらわかるやろ。』
と相手にしてくれず、
(じゃあ、タクシー用意できるのか?)と思いながら父とチェンジを指示。
父はちょうど最近、自身が勉強を教えている子供たちとクリスマスに何が欲しいかという話をしたらしかったのだが
『残念やけど参考にはならへんで。最近の子は皆、スマホか現金が欲しいんやって。』
とのこと。
それは困る、何かないのかと詰め寄るも、全く案を出してくれず。かつては私のサンタ役をやってただろうにと、元サンタのくせにと嘆いたのだが、私がもらった最後のサンタからのプレゼントがタワーレコードの金券5000円分だったことを思い出し、アテにする相手を間違えたと気づき、すぐさま電話を切った。電話を切った後、既に午前11時を過ぎていて、片付けが終わってない部屋をほっておいてプレゼント探しへと出発した。
スポーツ用品店に行ってみたり、洋服をみたり、おもちゃ屋さんに行ってみたりもしたのだが、どれもピンとこず。どのお店でもレジ前では長蛇の列ができており、並んでいる人たちはさながら世間に潜むサンタだな、とか思考が現実逃避を始め出した頃、主人からメールが届いた。
『スイッチのプロコントローラーとゼルダの伝説(スイッチのソフト)はどう?』
『!!』
テレビゲームの類は本当はあまり増やしたくないのだが(どの口が言う…)、確かにそれは喜ぶ。というか、主人も喜ぶ。クリスマスだし普段から外出気味の子供たちだし、それもいいかと思い、一路ゲーム屋さんへと向かった。プロコントローラーなるものは見つかったもののソフトが見当たらず、仕方なくコントローラーだけのために列に並びお会計となった。ゲーム屋さんを出発し、急いでFNACという家電や書籍、おもちゃにCD、DVDとあらゆるものがあるお店へと向かった。ゲームコーナーで無事ゼルダのソフトを見つけ、お会計へと向かった。会計レジの前はそうそうお目にかかれないくらいの長蛇の列ができていた。あらゆるものがおいてあるので客層、客数が桁違いに多かったのだ。10台以上のレジがあるにもかかわらずのその状況に、唖然としつつ仕方がないから並びだした。時計を見ると午後2時半。マルシェがすっかり終わっている時間だった。マルシェに牡蠣を買いに行けなかったショックに、長蛇の列などどうでもよくなり、脱力しながら列が進むのを待った。
無事に二つのプレゼントを購入し、家に着いたのは3時半。あと少しで子供たちが帰ってくる時間だった。
『ぎりぎりセーフか…』と、オレンジジュースと1ユーロもしないインスタントのフォーを食べながら安堵した。
サンタクロースもなかなかに難しい。