フライングバカンス
遂に冬期バカンスが始まった。
四六時中家にいることが予想される娘&息子に対抗するために企てたご馳走昼御飯計画も失敗に終わり、十分な英気を養えないままのスタートとなった。
フランスでは、本来なら公立の教育機関は土曜日はお休みなのだが、娘の通っている中学校は公立にして日本語の授業を受けることができるため若干受ける授業数が多いので、土曜日も午前中だけ学校に行かねばならない。世間でバカンスが始まりだした昨日の土曜日とて、例外なく学校があった。
しかし、学校があるとはいえ午前中だけで、おまけに翌日からはバカンス。テストもなければ大した授業もないだろうと私は気楽に構えていた。バカンス中の娘&息子との戦いはそりゃもう大変だが、一方で通学に合わせて早起きしなくていいという素敵なオプションがついてくるので、身構える反面嬉しくもあるのだ。
そんな思いから、後は土曜の朝だけ早起きして娘を送り出せばいいのだと金曜日の深夜、気を楽にして眠りについていたのだ。
土曜の朝、目が覚めると既に娘が起きていた。彼女は着替えが終わり食卓の横で学校の用意をしていた。テーブルにおいてあるチョコパンを朝食に食べていいかと聞かれたので、お好きにどうぞ、と伝え、寝ぼけ頭で娘の向かいの椅子に座った。時計を見ると8時15分だった。チョコパンと水を朝食にとりながら、娘に携帯を見せてほしいと頼まれたので、彼女が食べ終わると、私は携帯画面に裏日記のウィンドウが開いてないことを確認してから彼女に携帯を渡した。
他の学校がどうなのかは詳しくはわからないのだが、娘の通う中学では時間割や宿題、テストの点や学校からの連絡事項まで、学校から推奨されてるプロノットというアプリ一つで全てが確認できるようになっている。曜日によって授業の開始時間が違ったり、時間割の変動や休講などもよくあるので、娘はほぼ毎日、私の携帯で学校の連絡や時間割、宿題なんかを確認するのだ。
向かいに座る娘は、私から携帯を受け取り、そのアプリで自分が今から受ける授業と宿題を確認していた。
マ『今さら見んでもいいんちゃうん?』
娘『……まあ、そうなんやけどな。』
前日にも見ていただろうにと、そこまで気にするこてはないだろうと言い、娘から携帯を返してもらった。裏日記の存在をひた隠しにしている私としては、なるべく長時間携帯を家族に触られないよう細心の注意を払っているのだ。携帯を受け取り画面を見ると、学校のその日の時間割のページが開かれたままだった。よしよし他(日記)は見てないなと安心し、画面に表示されていた一時間目から四時間目までの授業内容を見て
『ほら、別に昨日と変わってないやん。』
と、彼女に言った。
『…うん。まあ、そうやねんけどな。』
と、言いながら娘は出かける用意を始めた。
8時半を少しまわる頃、いつもの平日なら息子も学校へ行く時間だが、その日学校がない彼はよく寝ていた。一人まだ授業がある娘を玄関まで応援しながら見送っていると、
『あのさ、ママ。今もう一時間目始まってる時間やからな。』
と、言われた。さらに、
『時間割見ても気づいてなかったやろ?ねぼけすぎな。いってきまーす。(笑)』
と言って、マンションの階段を降りていった。
『……。』
たしかに、娘の学校の一時間目は8時からだったと思い出した。彼女は既に大幅に遅刻していたのだ。
やってしまった、、、と思ったが、そもそも起きなかった彼女も同罪だと開き直り、食卓へと戻った。
食卓にある娘の使ったお皿とコップを下げながら、そういえば何で彼女は牛乳を飲んでなかったのだろうと手元の空になってるコップを見て思った。
『!!!』
冷蔵庫を開けるとあるはずの牛乳がなかった。
暖房の横においてある鞄を見ると、中に前の日の夕方に買った牛乳(要冷蔵)があった。
『………。』
どうやら、英気が足りず私の頭は既にバカンスに入っていたようだ。