エピローグ
昨日、ポリスの封鎖テープがなくなり雪の中自宅へ帰ると、既に夕方の5時になっていた。
こんなはずでは…と、すっかりおかしな疲労感に襲われていた私&娘&息子は、疲れきってしばらくダラダラとした時間を過ごした。娘も私も空腹ではあったのだが、疲労感から昼間より空腹感が少し麻痺していた。
『今日の夜ご飯なに?』
と、娘に聞かれ
『餃子。』
と、答えると、喜ぶ息子の横で娘が苦悩した。
『お腹すいたけど、餃子やしなー。今なんか食べたらお腹いっぱいになって、餃子たべれへんのもいややしなー…』
と、空腹感と餃子を天秤にかけていたのだ。『なるべく早く作るから』
といって娘をなだめ夕食前の間食にストップをかけた。
こうしちゃいられないと餃子を作ろうと、冷蔵庫から材料を出そうとした。ひき肉、ニラ、白菜…ん?ネギが見当たらない…と、野菜室をあさると、ほんの一切れのしかもネギの先の緑の部分しかないネギが出てきた。これじゃあ困ると、そこの八百屋に買いに行こうかなと言うと、娘が
『私、いってこよか?』
と、言ってくれたので、
『え?いいの?じゃあ…』
と、頼みかけると外からやたらと大きな車の音が聞こえてきた。まさか!?と思い、娘とあわてて窓から顔を出すと昼間にあった消防車がまた来ていたのだ。
私『……』
娘『……』
なぜに再び……と空腹二人は言葉を失い、しばらく消防車の様子を観察した。どうみても、ちょっと立ち寄りましたってわけではなく、停車された車内から続々と防護服をきた消防隊員の方々が出てきた。
私『これさ、外出たらやばいかな?』
娘『やばくない?かなり。』
私『帰ってこれなくなる系?』
娘『ありえる。』
私『とりあえず、いかんでいいよ。』
娘『さすがにこれはいややわ。無理。』
私『とゆうか、ネギ無しでもいい?』
娘『うん。それがいいと思う。』
私『これで、一人買い物に行って、封鎖されたら悲惨よな。』
娘『三人でいっても悲惨。』
私『…ですよね。』
と、餃子のネギぐらい無かろうと全く問題無しだと、ネギ無し餃子を受け入れ三人で籠城することにした。幸いにも昼間のように道を封鎖するわけでもなく、警官もいないかったので大事ではなさそうだった。いつまでも見てても仕方がないと、窓を閉めネギ無し餃子の制作にかかった。子供たちも、いつものように楽器の練習や宿題に取りかかった。
しかし、たしかに昼間ほど危機的緊迫さはなさそうだったのだが、私が夕食の餃子を皮で包み終えようと、息子がチェロの練習を終わろうと、娘がテスト勉強にとりかかろうと、外の消防車の作業音だけが止まることなくひたすら外から続いていた。私も含め三人とも気になって気になって何度となく窓を開け外を見たのだが、変わることなく太いホースが小学校の中へと続いて消防車のライトが明るく光っていた。
餃子を焼き終え三人でネギ無し餃子を食べながら、『ネギなんか無くても全然大丈夫やな』とか言いつつ呑気に夕食を楽しんだ。夕食が終わってからふと再び外を見るも、やはり外は同じ光景であった。
何度となく外を見ること数時間、子供達が寝る10時くらいに外からザワザワと声が聞こえてきた。とっさに、娘と二人で窓を開けて外をみた。消防隊員の人達がホースや道具を片付けながら笑いあっていた。娘と二人で、
『あの人たちはえらい。』
『ほんまにすごい。』
『拍手したいよな。』
『ありがとうって言いたいくらいがんばってくれてたよな。』
『うちら呑気に餃子食べてただけやで。』
などと、言い合った。
一日中重い防護服を着てガス漏れ疑惑と戦う消防隊員の方々の姿は、さっきまで呑気に餃子を食ベていた母娘には申し訳なさを感じるくらい、ものすごくかっこよく見えたのだった。