i-chi-tora’s ura-diary 一虎裏日記

"王様の耳はロバの耳"よろしく、徒然なるままに憎らしくも可愛い娘&息子の愚行を愛をもって暴露していくことを中心とする裏日記

幸運のバナナ

「午後12時45分審査開始」

と書かれたバイオリンコンクールの受験案内をもとに、バイオリンの先生から

『直前の練習用に練習室を借りれるので朝11時に会場に来て下さい。』

と言われたので、万が一にも遅れるわけにはいかないと、コンクール当日の昨日、娘&息子&私の三人は予定していた時間よりかなり早めに家を出発した。

 

コンクール会場11時集合で審査が12時45分開始だとなると、昼ご飯をゆっくり食べれないなと思ったので、行きしなに何か軽くつまめるパンでも買って持っていこうと考えていたのだが、困ったことに会場に着くまでのスーパーがことごとく閉まっていて、結局何も買えないまま、10時半というかなり早い時間に会場へ到着してしまった。

早めに来たにも関わらず、会場に入るとすぐに娘のバイオリンの先生と会うことができた。先生の言うことには、午前中に行われている他のレベルの審査がかなり長引いていて、娘の審査も12時45分開始とはいかず、もっと後になるだろうということだった。

それを聞いて、来る途中に何も食べ物を買えていなかった私は焦った。我が娘は単純なので、お腹が減っている時と満腹時ではエネルギーの放出量があからさまに違うのだ。空腹状態でコンクールなんて、折角の今までの練習が水の泡になりかねないと思い、先生に近くにスーパーかパン屋さんはないですかと尋ねた。

『……スーパーはあるかなあ…確かに出来ればすぐにエネルギーになるバナナなんかを食べておいたほうがいいですね。私もよく演奏の少し前にバナナを食べるんですよ。一つ向こうの大きい駅の方へ行かれたら、スーパーはわからないけど、パン屋さんとかスターバックスとかはありましたよ。』

と教えてくれた。

それをきくやいなや、先生のことが大好きで崇拝しきっている単純な我が娘は

『バナナ!バナナ探そ!!先生もいつもバナナって言ってるし、バナナ食べる!!』

と言いだした。

どこに何屋さんがあるかもわからない状況でそんな我儘とも言える娘の要求に、普段なら一蹴している私だが、昨日の私はそんな娘の考えに異を唱えるはずもなく、

『よし!先生にあやかってバナナを探しにいこう!!今日のラッキーアイテムはバナナだ!!』

と賛同し、先生に

『少しバナナを探しに行ってきます。』

と伝えた。私達親子三人とかれこれ五年間も付き合ってくれている彼女は、笑いながら我ら親子を送り出してくれた。

とりあえず先生の言ったとおり、一つ向こうの大きい駅を目指すことにした。スタバやパン屋さんにもカットされたフルーツはあったはずだと、片っ端からバナナを探すことにした。

パリの街では、日曜日を休業日としている店舗が多く、場所によっては片っ端から全ての店が閉まっていたりするのだ。コンクール会場のある界隈はまさにそんな場所だった。古くからの音楽学校があるせいか、楽器屋さんばかりが大通りにずらりと並んでいるのだが、見事に全ての店が閉められていた。

バナナを目的とするもバナナを売っていそうな店はなく、道すがら目にはいる休業中の楽器屋さんのレトロなショーウィンドウは時折私達の足を止めた。

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楽器のあれこれに見とれている場合じゃないと言いながら、止まっては進みを繰り返す私達は、ダラダラとしながらも駅の手前に一軒のスターバックスを見つけた。店内に入り、サンドイッチやカットフルーツが並ぶ冷蔵コーナーをチラっと見ては、バナナがないことを確認すると、店員さんに一言謝ってから店を出た。スターバックスにはあるんじゃないだろうかと期待していたので、私達は少し焦った。

それからスターバックスを後に、急ぎ足で少し歩くと駅前についた。パン屋さん、ビザ屋さん、スターバックスマクドナルドが視界に入ったのだが、いまいちバナナがありそうなお店はなかった。

しかし、もしかしたらあるかもしれないと、それらの店の前まで行きガラス越しに店内を見てはバナナの有無を確認した。だが、バナナはなかった。大きな駅の回りの通りをぐるりと歩いていて思い出した。

ママ(私)『待って!駅の売店にあるんじゃない!?』

娘『ほんまや!』

私達三人は慌てて駅構内へ入った。

案の定、駅構内にある大きな売店にバナナが山積みになって売られていた。

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ラッキーアイテムをゲットだ!!と我々三人は小さな店内で喜び、4本のバナナをお会計へ持っていき精算をすませると、コンクール会場へと戻っていった。

ついさっきショーウィンドウの楽器を眺めながらダラダラ歩いていた道を急ぎ足で逆戻りしながらバナナを買えたことを喜びあった。至極勝手な験担ぎではあるのだが、これだけ店が閉まっている中、目的のバナナに出会えたことは単純な我々にとっては幸運を手に出来たような気分だったのだ。

『これでばっちり!後は楽しく弾くだけやな!』

と言いながら、もうあと数十メートルで会場に着くというところまできたとき、コンクール会場の向こうから歩いてくる女性に目がいき固まった。娘もほぼ同時に歩みを止めた。

息子が

『めっちゃバナナやん!!!!』

と叫んだ。

向こうから向かってくる女性がなんと両手いっぱいにバナナを抱えて歩いていたのだ。娘が吹き出し

『買いにいかんでよかったやんっ!!!!』

と叫んだ。

いやいや、まてまてと、

『いくらなんでも歩いている人からは売ってもらえへんやろ!!あの人も要るからあんな抱えてるんやし!たまたま通っただけやしな!』

と、娘を宥めた。

そりゃそうか、と一瞬騒いだ自分を落ち着けた娘だったが、これだけバナナバナナと探しまわった挙げ句、会場前で大量バナナと出会ったことがおかしくて、大笑いとなった。もちろん私&息子も笑った。

『これは、いいことありそやな。』

と勝手な験担ぎに期待をしながら、上機嫌での会場入りとなった。

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演奏後、

『あー!めっちゃ楽しかったっ!!!』

と、自身の演奏に満足そうな娘を見て、こんな神経図太い性格に験担ぎが必要だったんだろうかとも思えたが、とりあえずバナナのおかげということにしておいた。

 

審査結果は後日郵送なので今はまだわからないのだが、何はともあれ楽しい一日となり満足なコンクールであった。

 

 

次回からはバナナ持参で行くとしよう。