i-chi-tora’s ura-diary 一虎裏日記

"王様の耳はロバの耳"よろしく、徒然なるままに憎らしくも可愛い娘&息子の愚行を愛をもって暴露していくことを中心とする裏日記

色気負け

天井ヒビ事件を解決すべく、先日から色々なところへと連絡をしている。

 

フランスへ来てかなりの年月が経てども、いまだにペラペラと話せるとは言いがたい拙い我がフランス語を駆使し、今日も朝から不動産屋さん、大家さん、保険やさん等とメールや電話で連絡をとった。

今日1日あっちへこっちへと連絡をとりつづけた末、最後に我が家のひとつ上の階に住むムッシュの部屋へと相談に向かった。彼がこのアパートの管理責任者だったからだ。

上の階に住むムッシュはいつも優しく穏やかで、私は彼のことがものすごく好きなのだが、だがしかし同時に何とも少し苦手でもあったのだ。

というのも、色気?フェロモン?オーラ?みたいなものがものすごく漂っていて、話していると、さほどの年齢差があるとも思えないムッシュと私との間に、叶姉妹と男子小学生くらいの色気の差を感じてしまうのだ。特に美人の女性や、綺麗な顔の男前といても、そんなことは全く気にしない私なのだが、彼がゲイだからか、いつもいい匂いだからか、妙に穏やかな物腰だからか、どれが理由か全くわからないが、とにかく彼と話すと彼の色気オーラに激しく当てられてしまい、自分の色気の少なさになんだか申し訳ないような気分になっていってしまうのだ。

階段をあがりそんなムッシュの住む部屋へ向かった。

トントン。

ノックをすると、直ぐに彼は扉を開けてくれ、優しそうな顔をしながら迎えてくれた。

『こんばんは。元気?どうしたの?何かあった?』

とゆっくりと分かりやすく話してくれる彼に、『ああ、今日もやっぱり色気多いなー』とそんなバカなことを考えてしまうも、気を取り直し、我が家の天井ヒビ割れ事件を必死で伝えた。

すると、なんと彼は建物管理の責任者の任を降りていたらしく、自分では特別な対処がもう出来ないとのことだった。しかし、こちらのフランス語が苦手なことや、そういった手続きのややこしさを知っている彼は、親身に相談にのってくれ、いつでも自分が代理で説明ができるように我が家のヒビの状況を直接見ておこうかと言ってくれたのだ。こんないい匂いの人に我が家に来てもらうのは申し訳ないと思いながらも、厚かましくも我が家に来ていただいて相談にのってもらった。

色気に当てられながらも、一通り説明し終えると、

『ところで、あなたは日本人だよね?日本語を話しているよね?』

と尋ねられた。

『はい。日本人ですよ。普段は日本語なんで、フランス語が下手で申し訳ないです。』

と言うと

『実は日本語を教えてくれる人を探しているんだよね。』

と言われ、

『ええ?あなたが?』

と尋ねると、彼はゆっくりと日本語で

『わたしは いちねん  とうきょう に  すんでいました。』

と話してくれた。

長年同じアパートに住んでいて、初めて知った新事実に驚いた。どうやら彼は学生時代に一年間交換留学で早稲田大学へ通って日本語の勉強をしていたとのこと。しかし、今や仕事に追われて、日本語から遠ざかってしまい、かなり忘れてしまったので、勉強しなおして忘れた日本語を取り戻したいと考えており、日本語を教えてくれる先生を探しているとのことだった。

私が知っているだけで少なくとも彼はフランス語、スペイン語、英語の三か国語を話せるはずだ。それにもかかわらず、まだ勉強をするのかと感心せずにはいられなかった。

英語もほとんど忘れてしまい、フランス語もまだまだ拙い私。さらになにより、この圧倒的な色気の差。もう住居相談より人生相談をしたくなった。

さらに彼は私に

『もしあなたに時間があったら、わたしに日本語を教えてくれませんか?』

と尋ねてきた。私は

『私はフランス語があまり上手くないから、きちんと意味を説明したりできないと思う。』

と告げ、彼からのお願いを丁重にお断りした。

実際、胸中では

『ムリムリムリムリ!!こんな色気の人と二人で勉強なんか絶対に無理っ!!!!』

と叫び声をあげていた。

 

 

 

慣れない色気恐るべし