領域侵犯
私は気づいた。
ヤツのあれが100%母に対する親切心からではないのだと。
一昨日の夜、彼女に
『おやすみ~』
と言った後、
『おやすみ~』
『早く寝ぇや!!』
と小言を足されて返事をされた。
どんどん小うるさくなってきたと、少しやっかいに思いながら、私はその後すぐに寝にいくこともせず、いつものように携帯電話をさわりだした。ご丁寧にも我が裏日記にコメントをくださった方がおられ、お礼のお返事を記した後、書きかけていた下書きの日記を書き上げ更新した。それからもしばらく携帯電話をさわり、気づけば深夜の2時前となっていたので、これはやばいと慌ててベッドへと向かった。
真っ暗な中、少し入ってくる明かりのせいでか、私の寝床のシルエットがいつもと違う形をしているのがわかった。
『?????』
やたらと体積があり、(なんだこれ?)と思いながら、枕元にある電気スタンドの小さな明かりをつけた。
私の寝床にやたらと大量にぬいぐるみが敷き詰められていた。特に枕元には大きめのぬいぐるみが、さも寝ているかのように並べられ、その上には
『おやすみ』
と書かれた紙がおかれてあった。
私は瞬時にわかった。ヤツ=娘 の仕業であると。
そして気づいたのだ。もはやこれは母に対する親切心からの起床促進運動ではなく、困ってる母を面白がってる娘のドS心からくるものだと。恐らくこの『おやすみ』の一言と、大量のかさ張るぬいぐるみたちは助言通りに早く寝ない母へ対し、
『早く寝ぇへんから寝るとこなくなるねん。(ニヤリ)』
とでも言いたいんだろうよ、と思えてきた私は、やりかえさんと寝床に敷き詰められていたぬいぐるみを抱えた。そして、そのまま娘の寝ている二段ベッド上段へ次から次へと、すべてのむいぐるみを投げ入れた。暑がりで布団を蹴り飛ばして寝ていた娘の周りは大なり小なりのぬいぐるみに埋め尽くされ、仕上げに蹴り飛ばしていた掛け布団をかけておいた。よく眠ってる娘は一度も目を覚ますことなく、少し苦悩しているような顔をしながら眠っていた。ぬいぐるみもなくなり、スッキリとした自分の寝床に戻った私は、ついさっき日記を書き上げたにも関わらず、直ぐ様、今の娘の所業を書いてやろうかと携帯電話を手にしたのだが、とりあえず彼女の意図を確認してからにしようと朝を待つことにして、そのまま眠りについた。
朝になり、いつものように先に起きていた娘に起こされた。すぐに私は
『あのぬいぐるみはなんなん?あの『おやすみ』と!』
と尋ねた。
『あはははは!寝るとこなかったやろ?いつまでも寝ぇへんから先に寝られて場所なくなるんやん。』
と、恐ろしいまでに予想通りの答えが帰って来た。予想はしていたものの、一言言わないと気がすまなかったので、夜中の心境を彼女に伝えた。
母『やっぱり!!あんなん寝れへんし、邪魔やったし、全部そのままそっちのベッドにいれてから寝たから!』
娘『あー、だからベッドの下にぬいぐるみおちてたんや。気づかんかったわ。』
母の小さな嫌がらせは寝相の悪い娘にはまったくの効果がなかったようだった。こんなことが続くのはご免だと思い、
『あんなことしたら、余計寝るの遅くなるからやめて!早起き関係ないやん!』
と訴えたのだが、 娘は『えー。』と笑うだけであった。
そして、昨夜。
いつものように、
『おやすみー』
と言い合ってすぐ
『もうぬいぐるみはやめてやっ!!』
と一言つけたし先手をうった。
しばらくしてから、まだ寝るつもりはなかったのだが、私は私の寝床がのっとられていないか確認へ行った。案の定、乗っ取られていた。しかも、娘本人に。私の寝床でウトウトしてる娘を見つけ、揺さぶり起こし、
『それは反則!自分のところへ寝にいって!』
と主張すると、愚図りながら
『えー!こっちの方が寝心地いいんやもん!いややー!!』
と叫ばれた。
いつの間にか、起床促進運動は領域侵犯へとテーマが変わっていたようだ。