i-chi-tora’s ura-diary 一虎裏日記

"王様の耳はロバの耳"よろしく、徒然なるままに憎らしくも可愛い娘&息子の愚行を愛をもって暴露していくことを中心とする裏日記

恐怖の地下鉄

日曜日の朝は決まっていつも慌ただしい。

お昼前から子供たちの通っている音楽教室のレッスンがあるからだ。

 

昨日も朝から娘&息子&私の3人はレッスンへ出かけるため、のらりくらりと出かける用意をした。のらりくらりした結果、家を出るころには大慌てとなり、遅刻を恐れて地下鉄の駅まで小走りで急いだ。改札を通り大慌てで階段を降りると、電車がもう間もなく来るところだった。いつもは最前列の車両の一番前のドアから電車に乗りたがる息子。電車が好きな彼は車掌室の扉のガラス部分に張り付き、車掌さんの背後から電車が進んでいく様を眺めるのが趣味なのだ。しかし、昨日は残念なことに、車両にも人が多く、ホームにも我々と同じように電車を待っている人が多かったので電車の最前線には乗りこめず、車両こそ一番前だったものの、乗り込んだ扉はいつもより一つだけ後ろ側だった。

 

車両内で、進行状況を見ることもできず若干不貞くされてる息子と遅刻せずに済みそうだと安堵している娘と急いで駅まで来たことでへとへとになっていた私は、入ったドアのすぐ前の広くなっているところに立ち、無事にレッスンに間に合いそうだと三人揃ってほっとしていた。順番に停車駅を一つずついつものように停車しつつ地下鉄の中を進んでいった。五つ目の停車駅を出発してすぐさま、電車が急に減速した。急ブレーキとまではいかなかったが明らかに一気にスピードが落ち、さらにどんどん減速していった。フランスの地下鉄では、急に減速したり一旦停止したり、電気が切れたりといったことはたまにあることなので、またか…急いでる時に限って…などと思っていた。しかし、いつもなら一旦停止なり、電気が落ちるなりアクションがシンプルで、親切な車掌さんだと『しばらくお待ちください』とアナウンスがあったりするものだが、おかしいくらいに減速が続いた。もはや徒歩と変わらないんじゃないかと思うくらいの減速に加え、ブレーキをかけているのか、車輪あたりからキキキキッキキキキッと何度も不快な甲高い音がなっていた。さらにしばらくすると無理な低スピードに車両がギシギシいいだし、さすがに、その状況が少し怖くなってきた私は周りの乗客の様子を見た。周りのフランス人は若干不安な顔をしだしている人もいたが、むしろ減速に対して不満を抱いていそうな人が多かった。少し前から続いているギシギシと大きく軋む車両の音が大きくなるに加え、さらにクラクションがなりだした。我々三人の位置よりさらに前方の車掌室あたりからか、『プーーーー!プーーーー!プーー!プーー!プーー!!プーーーーー!……』と激しくなり響いた。私の横にいたビビりの息子は私の近くに寄ってき不安そうに車両の前方を気にした。図太い神経の娘は、どうせ大したことじゃないだろうよといった表情で『また止まったりするんやろ』などと言っていた。そんな子供二人を連れた母である私は、内心死ぬほど怖がっていた。

『まさか人がいてたり?』

『自殺志願者を説得しながら進んでる?』

『黄色いベストの残党?』

『まさか、テロ!!?』

『前から電車きてるとかはやめて!』

『とりあえず電車を止めてくれ』

『とゆうかバックでさっきの駅に戻ろうよ!』

とかなんとか、ひたすらに頭の中から湧き出てくる恐ろしい可能性と戦っていた。

ふと横の座席に座っていた小学生高学年くらいの女の子とそのお母さんの会話が耳に入ってきた。

母(私ではない)『こわいの?』

娘(うちの子にあらず)『ふふ、だいじょうぶよ。』

母『本当?怖いんじゃないの?でも、大丈夫よ。大したことはないわ。』

娘『ふふ。うん、何もないわよね。』

 

と、美しき親子姿を見事に表現したかのような互いを思いやる優しい会話だった。しかし、この残念な母(私)はそれを聞きながら、

『大したことないと!!?この状況で?マジで??これだけクラクション鳴らしてて???』

と、失礼極まりないツッコミを胸中に抱いていた。私が見ていたのに気づいてか、その母親がこちらを向き、目が合った。彼女は私ににこっと微笑んでくれた。私もそれに答え、乾ききっていたかもしれない笑顔をかえした。

同じ母という立場でいながら、歴然たる母としての余裕の違いを感じ、見習わねばと、ここでへたれてる場合ではないと思えてきた私は、変わらず鳴り響くクラクションの中、子供たちに強がってみせた。

『大丈夫やって。鳩でも地下鉄に入ってしまってるんじゃない?犬とかさ??ネズミじゃここまではせーへんやろー。』

と、湧き出る壮絶不安な可能性に対抗し、必死で具体的ポジティブ案をだしてみた。

娘『…鳩でも…こんなんするやろか?…こんなとこに、犬?』

息子『………』

母の動揺を察知してかソフトに返してくれた娘とコメントのしようがないといった表情の息子。そんな二人に対し、必死で鳩案は成り立つはずだと説いたのだが、

娘『でも、進んでるんやし大丈夫じゃない?もうすぐ次の駅に着くって。』

と、逆にカバーされた。

そうこうしているうちに、クラクションが止み少しスピードが戻り、予定より十分以上かかり次の停車駅についた。

 

6つ目の停車駅に着いてからの電車は減速や遅延に関するアナウンスもないまま、いつものスピードで走りだした。私は気持ちの悪い不安を抱きつつ、何だったのだあれは?と車内で子供たちと議論した。議論せども結局わからないままだし、嫌な怖い気持ちを抱いておきたくはないから、三人で『鳩が何羽も線路に入り込んでいた。』とゆうことにしようと決まった。いつものように最前線にへばりついていなかったために、電車前方を見ずにすんだと自分たちの幸運を噛み締めた。

それからいくつかの停車駅を経て、結局10数分遅れたものの目的の駅に到着した。鳴り止まないクラクションを聞き続け不安がいっぱいであった私は、もはやレッスンの遅刻などどうでもよくなっていて、とりあえず無事に電車から降りれたことに安堵した。三人で、無事つけてよかったなどと言いながら地下鉄の階段を上がり改札のある場所へでた。ふと振り返り改札機の上の電光掲示板を見ると、さっきクラクションを聞きながら減速して通ってきた区間が通行止めとなっており、後続の電車は不通と表示されていた。ぞっとした。すぐ横で同じ画面を見ていた娘が

『〇〇(6つ目の駅)着いたとき、向かいに止まってた電車の人ら、みんな電車から降ろされてたもんな……』

と呟いた。

『鳩じゃないな……。』

『ない……。』

『でも、轢いてもないよな…さすがにそれじゃ下ろされてるやろ…。』

『よな……。』

原因がはっきりとはわからないものの鳩ではなさそうだということがわかり、ポジティブ案が一つ消された瞬間だった。

誰にも何もなかったと祈りつつ、慌てて三人揃って音楽教室へ逃げて行った。

 

 

 

 

※本日、ツイッターで確認したところ人身事故ではなかったとのこと。よかった!!!